片恋
…
土曜日のお昼前。
そろそろ人が、
動き出す時間だ。
久しぶりの都会の雑踏は、
見てるだけで圧倒される。
今日はとても、天気がいい。
お昼に向けて
混雑し始めた駅前で、
人の流れをぼんやり眺めて
緊張を忘れようと、そっと深呼吸をする。
『明日、11時にA駅の時計の下な。』
きのう、遼平君の家にお邪魔して
いつものように送ってくれた亮介が、
別れ際、一方的にそう言った。
そのまま去ろうとするので
慌てて手を伸ばして引き止めると、
軽く腕を払われた。
「なにそれ、なんか用事?」
「遼平、明日ヒマだってさ。」
「え、遼平君が遊んでくれるの!?」
思わず大きな声を出すと、
亮介は顔をしかめて
うるせぇと苦笑した。
「ありがとう、亮介。」
「は、なんで?」
「・・・遼平君が、
言い出したわけじゃ、ないんでしょう?
・・・ありがとう。」
「よけーな事、考えんなよ。
俺の好意にケチがつくだろ」
相変わらず、言うことが素直じゃない。
だけど背を向ける前
一瞬見せた表情は満足そうに笑っていて、
私は珍しく、その背中に手を振った。