片恋
その時、
彼に何が起きたのかは
私にはよく、わからない。
だけど、驚いて見開かれた遼平君の瞳に
ずっと張り付いていた透明な膜が、
さあっと融けて、
消えた、
気がした。
彼を覆っていた見えないカーテンが
いま、不意に開けられたかのように
遼平君は、
どこか眩しそうに
視線を宙にさまよわせた。
そうして。
まるでいま初めて、
私に気がついたみたいに
どころかいま初めて、
ここにいる自分に気がついたみたいに
ほんの少しだけ揺れる
剥き出しの
素直な瞳が、現われた。
―――遼平君が、ゆっくりと
とても柔らかに笑った。
「・・・そっか。
さっき、一緒に聞いた曲か。」