片恋
琴子と話すのは、思いのほか楽しかった。
少し独特の感覚で
時々、面白いことを言う。
「・・・へえ。魚って、意外と綺麗なんだな。」
薄暗い空間の中で、
集められた照明を反射して
泳ぎまわる魚を眺めて呟いたが、
かじりつくようにして
水槽にはり付いている琴子の耳には、
入らなかったようだ。
・・・また、口が尖ってる。
思わず、小さく吹きだした。
夢中になると琴子がやる、
子供の時からの癖だ。
ぶすっと黙り込んで、
食い入る様にして
一心に見つめている時の方が、
はしゃいでみせたりする時よりも
ほんとはずっと、熱中している。
口数の少ない、
あまり笑ったりしない子供だった。
いつのまにか、
よく笑うようになったなと思う。
いつまでも水槽の前から
離れようとしない琴子に付き合って、
一歩下がった所から
ぼんやりと魚を眺めた。
昔、誰かに連れられて行った水族館は、
管理が良くなかったのか
傷だらけの魚ばかりで、
グロテスクな姿で
ひたすら泳ぎ回るのを
気味が悪いと思った。
どんなに普通に見えた魚でも、
水槽の中で一回りして反転すると
身が削げていたり
目玉が潰れていたりしていた。
「なんか、こう綺麗だと
同じ生き物って気がしないな。
テレビの向こうと同じ、映像か何かみたいだ。」