片恋
「で?最近こっち来ないのは、
遼平んちに行ってるわけ?
つーか、あいつ今でも
ウチを出入りしてんだけど。
シュウも、そのうちかちあう
だろうくらいに思ってたみたいだし。」
「・・・この前、初めて知って、
一回お邪魔しただけだけど・・・」
言いながら、どんどん声が小さくなる。
「行くなよ。」
「え」
あまりにもキッパリとした強い口調に
思わず顔を上げたのだけれど、
亮介はこっちを見ていなかった。
下を向いたまま、煙草を取り出して
口にくわえる。
私はすかさず取り上げて、
かわりにポケットから出した飴を
無言で押し付けた。
私のポケットには、飴やガムが
常備されている。
考えなしの、亮介の為だ。
亮介は軽く苦笑して
それを押し返すかわりに、
空いた手を後ろについて
そっくり返った。
「いつも遼平がいるとは限んねーだろ。
第一あれ、あいつにしたら、
隠れ家みたいなもんじゃん。
他人、入れたくないんじゃねえの?」
・・・ガーンッ。
他人て。
「じゃっ…邪魔にならないうちに帰るよ、顔見るだけっ。
お茶すすめられても、京都の精神(?)で!!」
「お前、どっちかっつうと江戸っ子だろ。」
―――だって、踏み込んでいかなかきゃ、
きっと何も、変わらない。
近づけない。
亮介が呆れたように、溜息をついた。
「はーーっ。
行ったらオンナと鉢合わせー!!とか
なっても、しらね~ぞ~。」
・・・そういうこともあるかもしれない、
とは、頭の片隅で覚悟して、いたけれど。
亮介が本当に言いたいのは、多分、
そういうことじゃ、なかった。