片恋
・・・
「・・・ありがとう。」
確かめるように
袖を通した自分を見回す姿は、
反応の遅さと相まって妙に幼い。
か細い声とうつむきがちな顔に、
中腰のまま「よし」と見上げて
笑いかけると、
張り詰めていた琴子の瞳が、
ほっと緩んだ。
「・・・ほんとおとうさんだなあ・・・」
強がるように、すねて口を尖らせる。
思わずつつきたくなるような頬に
つい手を伸ばしたが、
すっと顔を背けられた。
それから、それが無意識だったかのように、
切り離して明るい顔で、笑った。
「ねっ、借りてきたDVD
セットしていい?」
「いいよ。ノートパソコンで悪いけど。」
ほんと持ち運べる物しかないよねーとか
呟きながら、こちらに背を向けて
折り畳みの机にパソコンを広げる。
その背中が、酷く強張ってるように見えた。
「琴子ちゃん、コーヒー飲めたっけ?
お茶の方がいい?」
なんとなくキッチンに向かい
少し離れてから、声をかける。
「んーーー、えっ?
いいよ、お構いなく!」
いつも通りのんびりとした口調は
どこかうわの空で、
画面に夢中になってるのだと思い、
紅茶を淹れようと、お湯を火にかける。
背中の方で喋りかけてきた琴子が、
こっちに顔を向けているのだとわかった。
「・・・でね、さっきの続きなんだけど。
その時、亮介がね、・・・」
無理をした明るい声で
ひっきりなしに話し続けるのは、
落ち込んでしまいそうになるのを
懸命にこらえているのだろう。
それがわかったから、
答えるように相槌を打ちながら
手を休めずに、聞いていた。