片恋
4章
琴子ちゃん、でておいで
もうぜんぶ、おわったことだから
琴子ちゃんがおもうほど
わるいことはおきてなかったよ
―――
―――――・・・
私が選んで借りてきたDVDは、
あまり夢中になれるものではなかった。
主人公の女の子の名前が
そのままタイトルになってる映画で、
ちいさな女の子が母親の死を理解できずに
会いたい一心でお祈りをする、というものだ。
「・・・遼平君、見てる?」
長い足を投げ出して
壁に寄りかかって座った遼平君は、
少し遠いパソコンの小さな画面を、
どこかぼんやりと眺めている。
「見てるよ。」
私は画面そっちのけで、
遼平君の隣に手を突いて
間近から彼の顔をのぞきこむ。
「すごい。目を閉じてても見えるんだ。」
「いやこれ、まばたきだから。」
「ほんとにー?」
おかしくてクスクスと笑うと、
遼平君はちらりとこちらを見て、
少し笑った。
「ていうか、さっき目を開けた時と
場面が変わってない気がするんだけど・・・。」
「まばたきだからね。」
「うん、そう。まばたきだから。」
映画そのものよりも
遼平君のとぼけた反応が面白くて、
彼の目の前でひらひら手を振ってみたり、
変な顔をしてのぞきこんでみたりした。
「今何が見える?」
「琴子ちゃんのへんなかお。」
なにおー!今はヘンガオしてませんよ!!と
ふざけて怒ると、
遼平君はほんとに眠いのか、力なく笑う。
「ずーっと、見ないようにしてるよね。
・・・・・・私のこと。」
聞こえなければいい、と思いながら
小さな声で言ってみたら、
自分でもよく、聞き取れなかった。