片恋
「そうだよ、すごくすごく上手だった!
それにいっぱい賞をもらって・・・、
職員室の所に何枚も飾ってあった。」
小中学校の掲示板には、
大きな賞をとった作品は
なんでも
何年でも飾られていて、
そこに遼平君の作品が、
いくつもあったのだ。
厳めしくて長ったらしい名前の勲章が
たくさんくっついていた。
「あー、小学校とかの話だろ?
特別、絵が好きってわけじゃなかったよ。
一生懸命描いた覚えもないから、
適当に、ただ目の前にある物を見たまま・・・」
「それでその結果ですか・・・。」
「うん?だって俺の書きぞめ(笑)も
残ってなかった?」
「うわ、ヤな人間だ。。(笑)
でもあったよ、書きぞめの他に作文も…。」
確かに、芸術面に限らず
何でもできる人ではあるけれど。
それでも、絵を描く時のまなざしは
とても真摯で、子供ながらに
邪魔しちゃいけない気がしていた。
遠い昔の記憶の中で。
「・・・それにしても
何だかよくわからない話だったな。」
遼平君が、DVDのパッケージを
眺めながら呟く。
「みてないからでしょー。」
「琴子ちゃんこそ。」
鮮やかな夕やけがのぞく窓の外を
見やって、遼平君が立ち上がった。
「それ着てていいよ。行こう、駅。」
え、もう帰らないとだめなの?とか
上着を返すの忘れないようにしないと、とか
私は、いっぺんに色々思ったのだけれど、
結局、玄関の方に向かう遼平君を
追いかけながら、
「私はちゃんと見てました!」
と胸を張った。