片恋
「心配しなくても、
亮介が離れて行ったりはしないよ。」
何度も繰り返した言葉を
言い含めるようにしてのぞき込むと、
見開かれた琴子の瞳に
失望の色が広がる。
「遼平君は、亮介が心配じゃないの?」
「どうして?」
どうして?
目の前で
瞳の色が、また違う感情を映しだす。
おうむ返しに呟いた琴子が
一歩後ずさってよろめいたのを支え、
大丈夫?と確認しようとして、
逆に瞳を覗き込まれているのに気づいた。
食い入るように
融け込むように
琴子の視線が、どこまでもどこまでも入り込んでくる。
唐突に
握り締めたパレットナイフの記憶が、
脳裏をちらついた。
薄い刃先をつたう、寝惚けたような赤。
琴子の肩に乗せていた手を、
急に払いたくなった。
数秒間それをこらえ、
さり気なく手を引こうとした時
その手に自分の手を重ねて
琴子が溜息をついた。
「・・・ごめん、なんでもない。
こんなの、ただのやつあたりだ。
私はきっと、亮介を傷つけたから・・・。」
そう言ってうつむいた後、
顔を上げて少し甘えるように笑った。
「やっぱり疲れちゃった。
どっかで休んでいい?」