片恋
『亮介の事、よろしくね。』
『私が好きなのは、遼平君だよ。』
『そろそろ移動しようか。もうお昼だよ。』
『遼平君の事が、好きだって、言ってるのに』
『雑誌のインタビューで
ジン君が好きだって言ってたから。』
『ふーん。』
『でも遼平君の方が、カッコいいけど。』
私は何度、この人に好きだと言ったのだろう。
初めてのデートで、
水族館で、
彼の部屋で、
街中で、
食事しながら、
歩きながら、
何気ない会話のちょっとした合い間に
だけど一つも
彼の耳には届かなかった。
彼はごく自然に、なかったことにした。
なのになんで、
あの時に限って
彼に聞こえてしまったのだろう。
『だって
私がすきなのは、
遼平君だから。』
ああ、違う。
なんで私はあんな時に、
それを口にしてしまったのだろう。
なんでそんな簡単な間違いに
私は、気づかなかったのだろう。
あのとき、あの瞬間から、
彼の中で
私の言葉は、真実を失った。