片恋
【遼平 終】
「私、遼平君と同い年だったら
よかったのになあ。」
「え?」
担任の先生がどうとか、
クラスメイトがなにをしたとか、
楽しそうに学校の話をしていた琴子が、
ぽつんとそう言った。
暖色系で統一された店内には
大きく取られた窓から
日の光がたっぷりと差し込み、
一番奥にある窓際のこの席は、
外の景色と同じくらいに明るく
外気を忘れるくらいに暖かい。
華奢な造りの小さなテーブルと椅子は、
その分、向かい合う距離が近い。
通りがかった店員が
空のカップに紅茶を注ぎ足そうとするのを、
琴子は手で遮って断った。
それから自分の手元を見つめて、
どこか拗ねたような口調で
あかい唇を軽く噛む。
「そしたら高校生の遼平君の、
もっと近くにいられたのに。
同じクラスじゃなくても、
一緒に学校に行って、
色んな行事を一緒に過ごして、
ちびっこい弟くん達からかって、
・・・絶対そっちのが、
遼平君と仲良くなれる近道だ。」
空になったティーカップを
掌の中で転がしながら、
通りの方へと視線を向ける。
その視線をたどって
窓ガラスの向こうを見ると、
制服を着た高校生達が、
店の外を通り過ぎて行った。
土曜日でも、
学校へ向かわなきゃならない事があるんだろう。
部活だとか、
行事だとか、
模試だとか。
なんとなく見えなくなるまで目で追ってから、
琴子の横顔に視線を戻した。
「意外と、そうでもないかもよ。」
どうして?とこちらを向いた琴子が首を傾げ、
さらりと長い黒髪が揺れる。