片恋
「え?これ、遼平君の?」
中身は、アルバムのCDだ。
「そう、あげる。それとも今から探しに行く?」
「ううん、嬉しい!もらっちゃっていいの?ほんとにいいの?」
興奮冷めやらぬまま、
嬉しさのあまり
しつこいくらいに尋ねると、
遼平君はそのひとつひとつに、
うん、と答えてくれる。
そんなに好きなの?と、最後は苦笑していたけれど、
そうじゃなくて、とは言い出せなくて、
私は照れたように、へへっと笑う。
新品より、価値あるよ。
「そっかあーー、有名なのかあーー。
・・・ていうか、
私の鼻歌じゃわかんなかったんだね・・・」
「いや、琴子ちゃんが聞いたこれって、オルゴールだし、ね。」
「・・・フォローされてる・・・。」
メロディが止んでパタパタと音をさせながら、
人形達が文字盤の扉の中に次々としまわれて行く。
夏の終わりの午後五時は、
思ったよりもずっと日暮れが近い。
駅に向かって歩き出しながら、
私は遼平君の隣で、
ずっとそのメロディを口ずさんでいた。
―――
――――・・・
いつのまにか季節が変わり、
秋が深まり、冬が近づく。
私はそういうことを、遼平君に教わった。
「雨が多くなってきた。夏も終わりだな」とか
「琴子ちゃん、そんな薄着じゃ風邪ひくよ」とか
「銀杏が色づいてきたね、日も大分短くなった」とか
「空が高いな。でもちゃんと足元も見て歩いてね」とか。
【以上 遼平君・お父さん語録】