天使みたいな死神に、恋をした
「危ない危ない。ですから何回か言ってますけど、ここにいるなら私と一緒に行動してくれないと、どこに行っちゃうか分かりませんよ。下に見えた通り暗黒の泥沼の上に私の家はありますから。埋もれたければいつでもご自由にお一人で。と言いたいところですけれど、あなたはまだ生きていますからそういうわけにも行きませんからね。そして、ここに落ちたら私にも助けられません。この沼は管轄外なので」
アンジュラに抱えられたまま下を覗くとぐつぐつと沸き立つような黒い泡。この前は普通に歩けたのに。こんな沼の上になんてなかったのに。
時折垣間見える人の手のようなものはその沼に沈んだり浮いたりを繰り返す。
怖い。もう少しでこの沼に落ちる所だった。
「ありがとう」
「いえいえ」
脱力している私をまた肩を揺らしてアンジュラは声を出さずに笑っている……ようにしか感じられない。
いつのもようにフードをすっぽりと被っているから顔は分からないけど、雰囲気と肩の揺れ具合から察しが付く。
そのくらいまでに私はこの死神と一緒にいるというわけか。周り近所がずっと真っ暗だから、今がいつで、何月何日で、何時なのか、米粒ほどの察しもつけられない。