天使みたいな死神に、恋をした

「ですがね翠さん、私のところといいここといい、こんなところに楽しいものは無いんですよ。楽しいと感じるのは生きている証拠です。ここに来たら楽しいという感覚は無くなります」

「うん、確かに無いな。こいつもこいつなりにおまえの言う観光とやらを考えたが結果何もないってことで俺んとこに来たわけだ」

 答えを横取りしたのはルーインで、なんだか私はかなり迷惑なことをしているんじゃないかとひしひしと感じた。ダメだダメだと言ってもなんだかんだ結局私のしたいことをなんとかしてくれようとする。

「ほんと、うっとうしいなおまえは」

「あぁ、ルーイン、あなたは本当に身も蓋もないことをさらりと言いますね、確かにそうでしょうけれども。でも私のところよりかは幾分かはありそうじゃないですか。何かしらないんですか?」

「ない。でもよし分かった。そんなにここが知りたいならぱーっと飲んで人間界でいうところのさよならパーティーでもやってやるよ」

 
 っへーーーーーー。


 知らなかった。
 

 天国に近いこの場所でもお酒って飲めるもんなんだね。
 
 というか、私たちがお彼岸や命日その他諸々でお墓に供えるお供え物というのはちゃーんとこっちに届くシステムになっていた。

 そしてここではみんな平等にそれらを手に取ることができる。
 
 そもそも、生きていないからお腹が空くことはないんだけど、その名残というか、まねごとのようなかんじで楽しむこともできるというわけだ。もちろん花のにおいは感じないし味も感じない。しかし気持ちだけはかろうじて届くということだ。

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