天使みたいな死神に、恋をした

 体に戻ったら私はまだ大学生で、これから今後の人生もたっぷりとこなさなければならない。

 やることはまだまだたくさんある。卒業するにあたり卒論だってまだだし、就活だってまだまだこれからだ。

 このご時世、そんな簡単に内定がもらえるとも思えない。

 大手はおろか中小企業だって開けている戸口は狭いだろう。

 そういえば、彼氏もいたし。

 自分のことだけじゃなくて彼氏のことなんかも考えちゃったりして、時間はあっても足りない状況だ。

 いろいろなことでやるべきことがエベレスト並みにある。

 と考えると、こうしている間にも私の時間は過ぎ去って行っているわけだから、ここに長く居るわけにもいかないわけだ。そんなことは今更言われなくても分かっている。

 だからこそ、いられる間は楽しく過ごしたいと思うわけで。



「翠さん、こちらへどうぞ」

 戻ってからのことを少しばかり考えていたところに不意に声をかけられた。

 声の主は、そう、死神。

 私が考え事をしているわずかな時間にいつの間にか、
(私を追い出す)いや、私の希望を叶えようとしてくれていた。


 目の前にはお酒の類がデデンと置かれている。

 そして、『さぁ、こちらへどうぞ』

 と、紫色の不気味な爪でトトンと真っ白い床と思しき場所を叩いた。


 そのなんちゃって宴席みたいなものを見たら、さっきまで考えていた私のやるべきリストは、


 しゅぱっと消え去った。


 そして宴会モードに切り替わった。

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