黄昏に香る音色
「早いねえ〜。あっという間だ。もうすぐ、終わりだなんてなあ」

廊下を一緒に、歩きながら、

優一に、彼の指導員の先生が言った。

優一は、すれ違う生徒に挨拶しながら、

「そうですね。あと3日ですね」

実習の期間は、2週間だから。

前から、高橋が来た。

高橋と優一は、

無言で、すれ違った。

「牧村先生。母校に戻ってきて、どうでした?」

指導員の言葉に、

優一は、笑顔で答えた。

「よかったです。実は…この学校に、ちょっと…心残りが、ありましたんで…」

優一は、廊下の窓の方を向いた。

ガラス越しに、グラウンドが見えた。

「心残りって、何だい?」

少し気になるのか、指導員はきいた。

優一は窓から、顔を指導員に向けると、

愛想笑いを浮かべ、

「大したことではないです」

「そうか…」

指導員は、ポンと手を叩き、

「牧村先生は、ここのサッカー部出身でしたね。結構、優秀だったと」

「昔の話です」

優一は、もうグラウンドを見なかった。

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