黄昏に香る音色
あれから…数年後。


ゆうは再び、この学校に来ていた。

教育実習生として。



教師に、なりたいというよりも、

渡り廊下に来たかったのだ。


学生時代…ゆうは、ここに来れなかった。

助けられなかった彼女のことを、思い出すからだ。


教育実習の最終日。

彼女と同じように、渡り廊下にいた生徒に出会い、

ゆうは手摺りから、グラウンドを眺めた。



「先生は…どうして教師になりたいんですか?」

生徒の質問に、ゆうは苦笑した。

「先生になりたんじゃなくて……来たい場所があったんだ」 

夕焼けの中、グラウンドを眺めても…そこには、何もない。

自分の残り香さえも。

後悔さえも……。

「…頑張って!」

ゆうは、隣にいる望に似た生徒に、微笑んだ。

手摺りから離れ、渡り廊下から、去ろうとしたゆうより、女生徒の方が先に、

離れた。

ゆうに向かって、敬礼し、

「先生こそ…頑張って下さいね」

「ありがとう」

ゆうは、微笑んだ。

敬礼を解いた女生徒も微笑みかけ、

「先生って…好きな人いました?」

女生徒の質問に、ゆうはドキッとした。

「あたしに、似てましたか?」

「ええ…ああ…」

真っ赤になり、しどろもどろになるゆうに向かって、

もう一度、敬礼すると、

「立派な先生になってくださいね!」

女生徒は、渡り廊下から階段をかけ降りて行った。

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