黄昏に香る音色
赤い影は、真紅のドレスをまとった女だった。

黒く長いストレートの髪に、大きな瞳。

軽く会釈すると、

バンドが、後ろでセットしている中、

いきなり、アカペラで歌い出した。


明日香は、曲を知っていた。

美空ひばりのりんご追分。

啓介だけが、歌に絡んでいく。

人々は、まるで

奴隷だった。

聴くことしか許されない。

でも、押し付けがましくない、自然に心に染み渡る歌。

情熱的なのに、

どこか切ない。



明日香は、歌というものの魔力を知った。

軽やかで、

暖かく、やわらか。

そのくせ、激しく心をノックする。

最近、歌い始めたばかりの明日香は、愕然とした。

これが歌なの。

これが、歌うというものなの…。

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