黄昏に香る音色
店を出て、駅までの道を歩く啓介。

少し離れて、後ろを歩く……明日香。

少し空気が重い。

明日香が、無理やりでも、何か話そうとした刹那、

「最近どう?今度、音楽祭に出るんだって?」

啓介が、話しかけてきた。

「あ、えっと…」

いきなりで、口ごもる明日香に、

啓介は振り返り、優しい視線を送りながら、

「曲とか決まったの?」

「あっ、はい!一応は…」

「頑張ってるね」

啓介は、体を前に戻した。

「え…まだまだ…」

「努力が、音に出てるよ」

啓介と明日香は、歩き続けた。

「明日香ちゃんの音は、素直だね。今日、何かあったのかな?って…そんなこともわかる」

啓介は足を止め、振り返らずに、

「3日前…何かあった?」

「え…」

明日香も、足が止まった。

いや、動けなくなったのだ。


3日前…明日香は学校で、同じ学年の高橋に、襲われていた。

「ひどく、悲しくて、泣いてるんだけど…」

啓介は振り返り、

「その悲しみは…自分のではなく、誰かの為のもの」

高橋は、里美の元彼だった。

「誰かの為の…優しい音。それが、明日香ちゃんの音なんだね」


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