黄昏に香る音色
麻里亜は、ベンチに座らない。

「あんなひどいことした相手を、許してなんて…都合が、良すぎることはわかってる…。でも、許してあげてほしいの」

明日香も座らず、ただ麻里亜を見つめた。

「あたし達、今…付き合って…付き合っては、いないわね。ただ遊ばれてるだけ…。それでもいい」

遠くで、多くの生徒の声がした。

部活が始まったのだ。


「彼は、あなたにふられてから…おかしくなったの」

麻里亜は、目を伏せ、

「最初は、自分が悪いと責め…最後は、俺をふった女が悪いと。それから、周りにいたみんなに、手をだして…ドロドロに…。ファンクラブも解散したわ」

麻里亜は、明日香に背を向けた。

「最低な男だと、思ったけど…2人でいる時、たまに無意識で…あなたの名前を呼んで泣くの」

麻里亜の背中が、震えていた。

「あなたのことが、本当に好きなの。女の子に…それも、好きな子にふられたことが、すごくショックだったの」

麻里亜は、泣いていた。
涙を見せていないが、麻里亜の切なさが、伝わってきた。

「本当は、別れるべきなんだけど…。あたし、ほっとけなくて」

麻里亜は、涙を拭うと、

明日香の方を向いた。

「あたし…。あの人が、本当に好きなの。今日から、サッカー部のマネージャーをやるわ。もう絶対、この前のようなことさせないから」



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