黄昏に香る音色
「この曲は、明日香ちゃんには合ってるかもな」

演奏が終わった後、明日香に向かって、微笑むと…啓介は、ステージから降りた。

「ドラムの子も、よかったよ。明日香ちゃんの友達?」

啓介は振り返り、ドラムセットの向こうに座る里美を見た。

里美は誉められて、嬉しそうに、ドラムセットから飛び出し、

「はい!初めまして、有沢里美です。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

啓介は、カウンターに座った。

里美は、明日香に耳打ちする。

「あれが…啓介さんね。格好いいじゃない」

「そお」

素っ気なくこたえる明日香。

「興味なしか…」

里美は呟いた。

恵子は、ターキーの入ったグラスを、啓介に出した。

啓介は、1口飲むと、

「2人とも、いい感じだ。それに、店が明るくなった…いや、ママが綺麗になったよ」

「あら…前は綺麗じゃなかったの?」

「前から、綺麗だったよ」

「綺麗だなんて…言ってくれたことないじゃない」

啓介は、グラスを持つ手を止めて、

「は、母親に綺麗なんて、あまり言わないよ」

恵子は、啓介を見つめ、

「啓介は、男前よ。いつも言ってるでしょ」

「恥ずかしいから、やめてくれ」

じっと見つめる恵子の視線に、耐えられず…啓介は、グラスを持って、テーブルへ移動した。

同時に、明日香と里美が、カウンターに座る。

「啓介さん、どうしたの?」

首を傾げる明日香に、恵子はクスクス笑って、こたえた。

「まだまだ子供なのよ」




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