黄昏に香る音色
「啓介!?」

驚く和美と明日香。

「お袋のことか」

啓介は、明日香の方を向いて、

「こんな時間まで、連れ出して、申し訳ない。家まで送るよ」

和美に背を向けて、明日香に席を立つように、促す啓介。


「啓介!待ってよ!この子に、話があるのよ」

無視されたように感じ、和美は席を立った。

「何だ?」

啓介は振り返り、軽く和美を睨んだ。

「啓介に、言ってないわ!明日香!」

和美は、明日香を見、

「あんたみたいな!何の苦労も知らない女が、啓介とできるなんて、思い上がらないで!啓介といっしょにステージに立てる歌手は、あたしだけなんだから!」


「まだ、そんなことを言ってるのか!俺は、お前とは組まない」

啓介は、明日香と和美の間の壁となり、明日香を守る。

そんな啓介を見て、和美はさらに叫ぶ。

「あんたを、理解できるのは、あたしだけ!あたしを理解できるのも、あんただけなのに!」

「俺は、お前とはちがう!」

啓介は、伝票をつかむと、明日香の腕もつかんだ。

「今日は払うぞ」

泣き崩れる和美を残して、

一階に、二人は降りた。


明日香は気になって、上に戻ろうとしたが、

啓介が、首を横に振り、制した。

啓介はレジで、会計を済ます。

「チーフ、すまない。和美を頼む」

チーフは、ため息とともに頷くと、一枚のCDを、明日香に手渡した。

エリス・レジーナのイン・ロンドン。

「さっきかけてたCD。かずちゃんから、あの子にあげてと…。これは…先にお代を頂いてるから」


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