黄昏に香る音色
まだ実習2日目だから、優一は、緊張して、生徒の前にいるだけで、軽く震えている。

その姿が、年下である明日香から見ても、

可愛い。

だけど、本人は至って真剣で、表情を…何とか保とうとしている姿が、さらにかわいい。

今日から、朝礼は、優一がやることを、担任が告げる。

「牧村先生」

はっとして、優一は背筋を正すと、ガチガチになりながらも、教壇に向かう。

担任は少し心配そうに、優一を見た。

優一は教壇の上で、書類を整え、咳払いをすると、

「しゅ、出席をと、取ります」

優一が、口籠もるだけで、女生徒は楽しそうに笑う。

「先生!」

1人の生徒が、手を挙げた。

雪野麻里亜。

ボリュームがある髪に、少しつり上がった目が、気の強さを示していた。

そんな麻里亜が、猫撫で声で、

「せんせぇってぇ〜かのじょいるんですかぁ〜」

「か、か、かのじょうお…えっと…か、彼女は…」

真面目に答えようにする優一の姿が、引き金になる。

「先生!」

「真剣に答えなくていい!」

担任の先生が、助け船をだしたけど、女生徒たちの質問は、止まらなくなった。

次々に、手が上がる。

女生徒の黄色声に、パニック状態になる教室。

担任は、頭を抱えた。




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