黄昏に香る音色
すがりつく手の力が、

泣き声が、

無垢な笑顔が…

すべて、恵子に向けられた。

すがりつく強さに、恵子は泣いた。

あなたのお母さんじゃないのに…。

恵子は、赤ん坊を抱き締めながら、

逆に、抱き締められていた。


心の雪は溶けた。

涙とともに。


やがて…

赤ん坊の泣き止んだ笑顔を見て、

恵子は誓った。

もう泣かない。

この子の為に、笑顔でいよう。

笑顔でいれば、生きていける。

そう確信した。

それは同情でも、義務でもなかった。

お互いがいて、お互いがいるから、

生きていける。

そういう意味では、恵子と啓介は…

親子とは、少しちがうのかもしれない…。
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