黄昏に香る音色
「仕方がないわ…あたしじゃ勝てないって」

里美は、明日香から視線を外し…顔を上に向けた。流れそうな涙を止める為に。


「何言ってるのよ!里美」

里美は、明日香を無視し…言葉を続けた。

「高橋君にふられて…初めて、ママの店に行った時……。あたしの為に、トランペット吹いてくれたでしょ…。その時のあんた…むちゃくちゃ格好よかった。あんたみたいに、なりたいと思ったんだ……。だから、軽音部に入ったのよ」

「滝川部長に、一目惚れしたからじゃないの?」

里美は笑い、

「確かに…部長は、格好いいけど…副部長という彼女がいるしね」


「えええ!!」

「気づかなかったの!相変わらず、鈍感ね。それにあたし…そんなに気持ちをすぐに、切り替えられない」

里美は目を丸くした後、明日香に顔を向け…微笑んだ。

明日香は無言で、何も言えなかった。

「音楽室で…あんたが、トランペットを吹いた時も、夕陽に照らされて…やっぱり綺麗だった。明日香…。あんたといっしょにいたら…あたしも、綺麗になれるかな」

「里美…」


「それなのに!」

里美は、勢いよく立ち上がると、

鞄で明日香をこづいた。

「何なのよ、あんた!暗すぎるわ!最近のトランペットを吹くあんたは!あたしに初めて、聴かせたときは…あんなに楽しそうだったのに!」

里美は、少し泣いていた。

「軽やか、軽やかって…自分こそ、できてないくせに!」

里美は、明日香に叫んだ。
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