黄昏に香る音色
真っすぐに向けられた明日香の視線に、たじろぐことなく、

「あたしに…何を伝えたいの?」

和美は、明日香に顔を近づけた。

明日香は、視線を逸らさない。


恵子は、そんな2人の間に…コーヒーを置いた。

「明日香ちゃん。はい、コーヒー」

恵子は、和美に視線を移した。

「かずちゃん。明日わかることよ」


鼻を鳴らすと、和美は、席を立った。

「ほんと、大した自信だわ」

和美は、真っすぐに扉へと歩いていく。

外に出る前に、和美は足を止め、振り向かずにきいた。

「啓介は明日、出ないわよね?」

「なぜ、俺が出るんだよ」

啓介は、ずっと腕を組んだままでいた。

和美は、啓介の方を振り返ると、

「邪魔だけはしないでね」

フンと前を向くと、扉を開け、そのまま出ていった。

ステージにいた阿部は、ベースを調節しながら、

「あれは、血だな」


恵子は、肩をすくめた。



明日香は、もうカウンターには座らずに…トランペットを持つと、ステージに向かって歩いていった。

ステージに上がると、ドラムセットの中にいた武田に向かって、口を開いた。

「武田さん!適当にリズム、叩いてくれますか。ちょっと吹きたくなっちゃった」

明日香は、何のメロディーも考えず、ただフリーブロウで吹きまくった。


「めずらしいな」

啓介が、ステージ上から聞こえてくる明日香の音の激しさを感じ、呟いた。


「そうね」

恵子も、明日香の音に…身を任せた。


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