黄昏に香る音色
「早くも…勝負あったわね」

恵子が呟いた。

隣で、啓介はただ…ステージ上を、じっと見つめていた。

恵子は、チラッと隣を見、

またステージに、視線を戻した。



やがて曲が終わり、

体育館中の観客が、一斉に立ち上がり、

拍手がわき起こった。

和美だけが、ステージを睨みつけていた。



明日香は頭を下げ、マイクに向かう。

「ペパーミントです。次の曲は、大切な人の為につくられた曲です」

トランペットを下げると、マイクの位置を確認し、

「安藤理恵さんの曲で…未来」

明日香は、歌い出す。

席から、立ち上がる和美。

里美が、静かにリズムを刻む。

明日香の甘くきれいな声が、体育館を包む。

まっすぐで、なめらかで軽やか。

それは、シャボン玉なんかじゃなく、ふわふわ暖かい羽毛だった。

間奏は、トランペットで。

健司より、淡く切ない音。

人々は、聴き惚れていた。


演奏が終わった後、

体育館は、暖かい空気に包まれていた。

観客の拍手さえ、暖かくなっていた。


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