黄昏に香る音色
そこには英語で、こう書かれていた。

作詞作曲 安藤理恵&…

河野和美。

「お袋のアルバムは、これ以外売っていない。過去の作品はすべて、お袋がマスターを破壊しているからな。過去のものは、残さない主義だったからな」

和美は、ジャケットを持ったまま震えている。

「どうして、このアルバムだけが、残っているのか…それは印税が…娘に、ずっと入るようにだ」

和美は、ジャケットから顔を上げ、啓介を睨んだ。

「印税なんてもらったことないわ」

「俺の母さんから、渡してもらっているだろ」

「あれはママが…」

啓介は、首を横に振った。

「ちがう。あれは…お袋が、母さんに、手紙とともに託したのさ。あの子を捨てたあたしを、許さないだろうからと。もし…いつかあたしを、許してくれて…未来を聴いてくれるまで…」

啓介は、和美の手を握った。

「未来とは…捨てた幸せではなく…和美。お前という未来のことだったんだよ」

啓介は、優しく微笑む。


「お前の未来の為に、未来という曲を、残したんだ」
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