黄昏に香る音色
「ふられたわね」

店に戻った恵子と啓介。

「啓介が、ふられるなんてな。それも大勢の前で」

ニヤニヤ笑う阿部。

啓介は、やけ酒のワイルドターキーをロックで飲みながら、阿部を睨んだ。

「おじさん!俺はまだ、ふられてないよ」

恵子も笑う。

ワイルドターキーをグラスに注ぎ、阿部に渡し、自分の分も用意すると、乾杯した。

「啓介の未来に、乾杯」

啓介はふくれた。

そんな息子の姿がかわいくて、恵子は啓介に絡む。

「それにしても…あたしの歌が聴きたかったんだって〜言ってくれたら、いつでも、歌ってあげたのに」

啓介は絡んでくる恵子を、振りほどきながら、

「口に出して、頼むんじゃなくて。母さんが、自分から歌ってほしかったんだよ」

恵子は、啓介を抱きしめた。

「痛い!首に入ってる」

半分冗談で、半分うれしさで。


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