黄昏に香る音色
「勿論、学費も、自分で払いたい」

明日香の話を、恵子は静かにきいた。

「それまでの一年半…部活を、メインにしたいんです。あたし…今まで…ママの優しさに甘えてばかり、教えて貰ってばかり…」

明日香は、カウンターから身を乗り出し、

「でも!この前の音楽祭で、思ったの。ここで、教わったことを、あたしがみんなに教えられるって!逆に、教えられることもいっぱいあるの!初心者の里美からも」

恵子は思った。

そう…。

この子も、あたしの子供だ。


「それで、どうしたいの?明日香ちゃんは」

明日香は申し訳なさそうに、

「あまり来れなくなります…ダブルケイに。ごめんなさい」

恵子は微笑み、明日香の背中を叩いた。

「何言ってるのよ。謝る必要なんてないわ」

「ママ!」

「学生なんだから、当たり前のことよ。それにしても…音楽ばかりね。恋人とかできないわよ。好きな人とかいないの?」

明日香は、少し考えると、

笑顔になり、

「…多分います」


恵子は眉を潜め、少し考え込むと、

「ああ、あれね…」

頷いた。

「はい」

明日香の嬉しそうな笑顔に、

恵子は、微笑んだ後…少しため息をついた。

「…尻にしかれるわね。でも…女は、そうした方がいいわ」

恵子は、明日香にウィンクした。

< 308 / 456 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop