黄昏に香る音色
「やっぱり…あなたとあたしは、違うわね。あたしには、書けない」

和美は、眩しそうに、手書きの歌詞を見つめた。


「でも、未来の歌詞を、書いたじゃないですか」

明日香の言葉に、和美は苦笑した。

「あれは、書き足しただけよ。まだ…曲を書く余裕なんて、ないわ。あたしは歌手…どんな曲でも歌うだけ…。だけど、どんな曲でも、歌いきってみせる」

和美の言葉は、力強かった。

歌手としての決意。

圧倒されて、ポカンとしてしまった明日香に気づき、

和美は少し笑い、視線を外した。

窓の向こうに、広がる青い海。

まだ日本にも、こんな綺麗な海があるんだと、

和美は嬉しかった。


「多分…曲を書くとしたら…あたしは、一曲だけだと思う。母親と同じように。今までの人生…すべてを一曲に凝縮した…たった一曲」

それは、和美の未来を暗示していた。

明日香は後に、そのことに気づくことになる。

明日香と和美は、違う。

だからこそ、今は理解できた。

和美という歌手を。

彼女の信念を。

違うからこそ、深く理解できた。

いつか、和美に認めて貰いたかった。

明日香の音楽を。

(いつか、この人と対等に話したい)

海を眺める和美の横顔を、見つめながら、

明日香はそう思った。
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