黄昏に香る音色
「あたし…来週旅立つの。日本を離れるわ」

思いも寄らない和美の言葉に、明日香は驚いた。

「あたし…美空ひばりが好きなの。何かの本で…ギリシャか、その辺りの人が、ひばりを聴いて…言葉はわからないけど…歌の感覚が、その国の歌手にそっくりだと書いてあったの」

和美の目は、窓から見える海の向こうを見つめる。

「その辺りや…フランスにいって、しばらく住もうと思ってる。フランスは、ジャズを…音楽を、もっとも愛する国だしね。アメリカとかと違い、音楽を愛してる国だから」


「どれくらい、いかれるんですか?」


「はっきりとは、決めてないけど…最低2年。歌だけで、どこまでやれるのか…試したいの」

そう話す和美の顔は、とても輝いていた。

「もうバイトの時間でしょ。そろそろ帰るわ」

和美は、腕時計を見た。

「まだ時間はあります」

明日香は、止めようとするが、

和美は、立ち上がった。

そして、1枚の名刺を差し出した。

「あたしが、世話になってた人よ。彼は、信用できるわ。音楽関係の仕事をくれるはずよ。あなたのプレイは、1年前の音楽祭から、聴いてるから…。どうせ働くなら、音楽に関わってる方が、為になるわ」

明日香は、受け取った名刺を見つめた。

そんな明日香を見つめ、和美は、


「それと、最後に一つ」

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