黄昏に香る音色
「啓介の姉として…」

明日香ははっとして、名刺から顔を上げた。

和美は優しく、微笑んでいた。

「あんまり啓介を…待たせないでね。あの子…一途だから…」

和美は、おもむろに啓介の携帯番号を書いたメモを取り出し、明日香に手渡した。

「ありがとうございます…」

明日香は、携帯番号を見つめた。

多分、しばらくはかけない。


かけれない…番号。

和美は、少しため息をついた。

「似てるわね…あなた達は…」

「え?」

顔を上げた明日香の驚いた顔が、和美はおかしかった。

笑いながら、旅立つのはいい。


「じゃあね。明日香ちゃん」

去っていく和美に、

明日香は慌てて、叫んだ。

思い切り大声で。

「気をつけて、いってらっしゃいませ!」

和美は振り返り、満面の笑みでこたえた。

「いってきます!」
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