黄昏に香る音色
「歌…上手いね」

曲が終わった後、

さっきの凄い演奏とは、違い…まだあどけない少年の笑顔に、

和美は、ドキッとした。

それは、初恋だった…。


しかし、初恋は

次の瞬間、終わりを迎えた。

「安藤啓介です。よろしく」

和美は、握手を求める啓介の顔を見つめてしまう。

「安藤…」





「安藤…啓介…」

ボソッと呟いた和美に、

「何だよ…いきなり、フルネームで」

サックスをしまい、

啓介は、ステージを降りる。

「あ、ああ…」

我に返った和美も、ステージを降りた。

「何か飲む?」

カウンターに入る啓介に、

「勝手に飲んでいいの?」

啓介は棚から、ターキーのボトルを取り出すと、

ボトルを和美に見せ、

「心配しなくても…俺のキープだ」

啓介は、2つのグラスを用意した。

和美は微笑むと、カウンターに座った。



あの日。

恵子は、和美に告げた。

「これは…あなたの才能を失いたくない…あたしの勝手な投資よ」

同情とかではなく、

あなたの才能に、惚れている。

恵子の嘘だと、今だからわかるけど…

あの時は、それが…生きていく励みになった。


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