黄昏に香る音色
育ててくれたお祖母ちゃんが亡くなり、

歌しか、支えがなくなった和美にとって、

あの頃の恵子の言葉が、素直に嬉しかった。

初恋であり、

唯一の肉親でもある啓介。


和美にとって、啓介達は特別な存在だった。

一緒に暮らしたり、頻繁に会ってた訳じゃないが…。

いつも、彼らを感じ、生きてきた。


軽く乾杯し、

グラスを傾けながら、

和美は、氷を見つめ続けた。

「こんな時間に、ここにくるなんて…何かあった?」

心配そうな啓介の声に、

和美は、ゆっくりと首を横に振った。

「何もないわ…」


「仕事…大変なんだろ?俺と違って…歌手は、表舞台に立つから…」

啓介は、グラスを揺らすと、

やっと一口飲んだ。


「変に売れようとか…思ってないから…。歌で、生きていけたら…それでいいの…」

和美は、氷を見つめながら、

「贅沢はしたいと、思わない…。いえ、贅沢をする暇もないわ。あたしはまだ…歌い足りない」

歌手としての和美の生き方は、啓介は好きだった。

自分も同じだから…。

しかし、男と女は違う。


身の…滅ぼし方が。



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