黄昏に香る音色
逆ギレで殴られたが、

何とか、家から追い出し、鍵も替えてやった。





狭いエレベーターに乗り、3階で降りた。

無駄に広い、踊場の向こう…フロアの奥にある…扉を開くと、

これも無駄に広い空間。

百人は入る。

奥には、昔バンドを雇っていた名残のステージがある。




「紗理奈、昨日はごめん」

ステージの裏の更衣室に入ると、

昨日、家にいたミーナが取って付けたように、謝ってきた。

今日の出勤は10人。

少ないが、平日…。

同伴の予定も入ってないみたいだ。


「ああ」

適当に返事すると、紗理奈は着替えだす。

怒りはなかった。

紗理奈は、古びたソファーに座ると、タバコに火をつけた。

「あいつはどうした?」

紗理奈の問いかけに、ミーナは首を傾げ、

「わからない。すぐに別れたし」

ミーナには、好きなやつがいる。

紗理奈も知ってるやつだから、相談を受けてた。

今回のことは遊び。

暇つぶし。

こんな女と、やるやつが悪いのだ。

別に、好きといってる男にもチクらない。

もし引っかかったら、そいつに見る目がないだけ。

知ってる女の男を、寝取った優越感だけ…。

それがほしいだけ…。


マネージャーが、朝礼を告げる。

タバコを消して、けだるいフロアにでた。

いつもと変わらないマネージャーの言葉。

どんなにえらそうに指示されても、お客に接するのは、

あたし達…女だ。

女のコントロールするのが、男の役目だというが…紗理奈はせせら笑った。

程度の低いやつに操れるのは、程度の低いやつだけだ。


時間の無駄と思いながら、紗理奈は、店内を見た。

場末のキャバクラ…。

一体どれくらい、

ここにいるのだろうか…。
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