黄昏に香る音色
グラスの中で、氷が回る。

おかわりを、紗理奈は作っていた。

「河野和美って、あの伝説の歌手、安藤理恵の娘なんだよね」

「安藤理恵?」

紗理奈は、首を傾げた。

美形は、紗理奈からグラスを受け取ると、一口飲んだ。

「知らない?海を渡って、アメリカでも、活躍した伝説の人物!日本人でありながら、世界中で愛された歌手さ」

「伝説…」

和美の母。

伝説の歌手。

「まあ、娘も伝説になるかも。有名なレーベルと契約したし、映画の主題歌も歌うし」

「そうですよね…あの人はすごいから…」

紗理奈の頭に、

安藤理恵という存在が残った。

和美のお母さん。

「その安藤…理恵さんのCDって売ってるんですか?」

「一枚だけ。輸入盤なら、手にはいるよ。持っていたんだけど、知り合いにあげたから」

「輸入盤?」

紗理奈がいくCDショップは、日本盤しかなかった。

「この辺だったら、一つ向こうの駅前にあるよ」

この街に来て、何年かたつが、あまり地理に詳しくなかった。

思わず、

紗理奈の口から出た言葉。

「いっしょに買いにいきませんか?」

「え?」

「今度の日曜日、休みなんで…」

少し照れてる紗理奈に、

美形は少し考えた後、

「いいよ」

「でしたら、昼の一時に駅前で」

「わかった」

美形が、了解したとき、

前にいる長髪が、時間が終わった事を告げた。

席をたつ二人。

「あのお…お名前は?」

紗理奈は、名前をきいてなかった。
< 346 / 456 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop