黄昏に香る音色
明日香は思わず、見とれてしまった。

淡く、茶色い瞳が、明日香に向いていた。

そして、この世のものとは思えない…まだあどけなさが残る笑顔。

それが、明日香に向けられていた。

少年との距離が、縮まったように、明日香には感じられた。

「違う…。香月さんだね」

少年は、なぜか…言葉を言い直したようだけど、

明日香には、聞こえなかった。

少年は、はにかみながら、

言葉を続けた。

「あなたが…いつも、ここにいることを知ってました。何が見えるのかなって…気になってた。とても真剣で…」

少年は、明日香を見つめ、

「まるで、大切なものを見守ってるみたいな感じが...した」

グラウンドから、笛の音が鳴り響き、歓声がわく。

どうやら、ゴールが決まったみたいだ。

だけど、今の明日香には、気づかなかった。

目の前にいる少年の瞳に、捕らわれていた。

それは、あまりに綺麗と、

あまりに、優しい目。

すべてを包み込んでしまうような…瞳の強さに、

明日香は、夕暮れであることさえ忘れそうになった。

淡く、やさしい瞳は、

少年こそが、夕暮れではないかと思った。

この瞳が曇るときこそ、

夜なのだと。



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