黄昏に香る音色
店は、道路を渡ると、すぐにスタジオがある…便利な場所にあった。

週4日は、働いていた。

啓介のバンドに入っていたが…そんなに毎日、仕事がある訳でなかった。

ジャズは、ギャラが安かった。

明日香をメインにし、歌を前面にだそうとしたが、

レコード会社は、啓介だけを押したかった。

バンドのメンバーに、給料を払わなければならない。

その為、啓介は相変わらず、セッションの仕事ををしていた。

仕事の依頼は多く、

啓介は、スタジオを飛び回っていた。

その間、

明日香は、スタジオとバイトを行ったり来たりしていた。

バンドは、タイトにまとまってきており、啓介がいない時は、明日香がリーダーだった。

大好きなマイルスディビスの言葉。

つねに、自分の知らないことをやる。

を意識して、練習した。

自分の知らない音楽を、探した。

ピアソラや…レゲエ、テクノ…自然の中。

川のせせらぎのような…いつまでも、聴いていられる…心地よい音を、奏でたかった。

明日香は、ミュージシャンになっていた。

もうすぐ…21になる。



優一と紗理奈は、ビールを注文した。

サーバーから、ビールをグラスに注ぐ明日香。

「今日は、お1人じゃないんですね。ゆうさん」

「うん。ちょっと…いっしょに、カラオケいってたんだ」
「カラオケかあ…ながいこと行ってないです。昔はよく、里美と行ってたんですけど」

ビールが、二人の前に出される。

優一は、紗理奈と乾杯する。

「里美…。有沢さんか!元気してるの」

「はい。お陰様で」

明日香と優一の会話を、聞いてるだけの紗理奈に気づき、

明日香は、紗理奈に微笑みかける。

「はじめまして、香月と申します。よろしくお願いします」

紗理奈はいきなりで、驚く。

「ああ、紗理奈です」

「音楽友達なんだ、俺達」

友達…。

その言葉が、紗理奈には

嫌だった。

明日香の笑顔も、

嫌だった。
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