黄昏に香る音色
そんな明日香の心なんて、わかるはずもなく、

少年は、視線を明日香から外し、グラウンドを校舎を、そばの体育館を、360度…すべてを見回した。

「やっと来れた。やっとこの場所に…」

少年は、泣いてるようだった。

少年の瞳が、涙で曇った瞬間、夕日が少し落ちた。

少年は見回すのをやめると、明日香にきいた。

「香月さんは…ここから何を見てるの?」

「え…あ…」

いきなりの質問に、明日香が戸惑っていると、

少年は激しく、首を横に振った。

「今の言葉…忘れてくれ。どうでも、いいことだ」

自嘲気味に笑う少年に、

明日香はききたかった。

なぜ、自分の名前を知っているのかを。

だけど、それよりも、

少年の悲しげな笑いが、なぜか…心に突き刺さり、


明日香は、胸を押さえた。





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