黄昏に香る音色
そこまで言って、和美は言葉を止めた。

そして、

またゆっくりと…話し始めた。

「母親は…この地で、自らの手で、命を絶ちました。それがなぜか…」

和美は、観客…集まっているスター達を、じっと見つめた。

(ここに…あたし達はいない)

和美は、鼓動を押さえながら、毅然と言った。

「彼女が、日本人だからです」

会場が騒めく。

「日本という国にいると、解りにくいですが…世界には、人種による違いがあります。白人、黒人、そして…その他有色人種!」

和美は、まっすぐに会場の人々をみた。

「だけど、この国の色分けなんて、あたしには関係ない!あたしの色は、ナチュラル!両親から生まれた自然の色。あたしの色よ。誰とも違う…あたしだけの色」

和美は、ドレスの袖をめくり、肌を見せる。

「人は、それぞれ違う。違うから、他人を理解しょうとする。違うから、知りたい。違うから、理解できないじゃない」

和美は、埋めつくす人々を見つめ、

「だから、あたしは、あなた方の言葉で歌う。あなた方を、理解したいから」

和美は息を整え、少し間をあけると、

「最後に、あたしの故郷を、ジャパンなんて…汚い言葉で、呼ばないでほしい」

和美は叫ぶ。

「あたしの故郷は!日本…に・ほ・んというの。ジャパンなんて国は、存在しないわ。馬鹿な日本人は、そう呼ばれても…気にしないみたいだけど」

和美は、手に持っていたグラミーの象徴を台に置いて、

その場を、去ろうとした。

司会の二人が慌てる。

「歌手に、必要なのは…観客と音楽だけ。名誉なんていらない」

決して振り返らず、

和美は、静まり返る会場を後にした。


(歌手に…この場所は似合わない)
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