黄昏に香る音色
生放送で、中継されたこの和美のスピーチは、

世界中で、議論を巻き起こした。

激しい嫌悪感を、抱くものもいたが、

表だっては、言えなかった。

有色人種の小娘が、生意気な。

と思っていても、公共の場でいえば問題になる。

しかし、

この国における差別は、根深い。

特に…

今まで、虐げられてきた者達には。

和美の周囲は、あまり変わらなかった。

よく言ったと、拍手する者もいたが、

周りは、冷ややかだった。

どう対応していいのか、わからないのだ。

偉大な賞を侮辱したと、怒る者もいた。

ライブを行っても、どこか戸惑いを、観客から感じた。

相変わらず満員だが、

白人の数が減っている。

(そろそろ潮時ね)

フランスに戻ろう。

最後のアメリカでのライブを終え、

バンドの仲間と、食事をしていると、

1人の男が、テーブルに割り込んできた。

スーツを着、品が良さそうな男はいきなり、

和美の前に座った。

「ちょっといいですか?お嬢さん」

和美は、ワインの入ったグラスを置いた。

「何か?」

和美の凛とした態度に、

男は苦笑し、

「テレビを、拝見しましたよ。あなたのアルバムも、聴きました。大したものだ。賞を取るのも納得する。しかし」

男が、ニャッと笑う。

危険を感じ、バンド仲間が立とうとしたが、

それを、和美が制した。

男は、さらに笑みを浮かべ、

「日本人にしてはだ。ジャズは、この国のものだ。お前の音楽は、ジャズじゃない!」

一転して睨む男に、和美は微笑みで返した。

「だから言ってます。あたしの音楽は、あたしだと。ジャンルなんて関係ない」


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