黄昏に香る音色
夕陽が沈みかけ、

最後に、さらに赤く輝く。

恵子の横顔が、赤く染まる。

「音楽を…この国だけでやろうと思わず…あの国を目指す者は…必ず、あることを、思い知らされるの」

恵子は、前を見…虚空を見据え、絞りだすように言った。

「人種の壁よ。今の世の中に、溢れてる音楽は…すべて、黒人や白人がつくったものよ」

窓の向こうの夕陽が、沈んでいく。

「どんなに、理恵さんや…かずちゃんが、素晴らしくても…彼女達は、オリジナルとは思われない」

恵子の向こうに、夜の闇が訪れる。

「言葉の壁より、人種の壁は、とても厚いのよ」

明日香は眉わひそめ、

「和美さんは…賞を取れないと」

恵子は首を横に振り、

「多分取るわ。だけど…快く、思わない人もでてくる」


「あんなに、人気があるのに…」

恵子は、首を横に振り、

「普通の人じゃない。ミュージシャンよ。ミュージシャンは、嫉妬深いの」

「そうですか。あたしの周りは…!?」

恵子が、明日香を真剣な目で、見つめていた。

息を飲む明日香。


「あなたはまだ…自分の足で、歩き出したばかり…それに、啓介がそばにいる。ミュージシャンの目が、啓介だけに向いてるかぎり…大丈夫だわ」

恵子は、明日香の手を取り、

「気をつけて、明日香ちゃん」

明日香は、笑顔を恵子に向けた。

「気をつけます。ママ、ありがとう」



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