黄昏に香る音色
明日香はニュースの前に、

啓介の電話で、和美の死を知らされた。

啓介は、仕事から戻ってきており、ダブルケイに帰っていた。

明日香はショックで、しばらく人が行き交う交差点で、立ち止まってしまった。

信号の点滅と、車のクラクションで、目を覚まし、何とか歩くことができた。

恵子の心配をきいていたから、どうにか意識を保てていた。

それでも、意識を強くもたないと、崩れそうだ。


「今日は…今から、バイト入ってるから、マスターが遅いし…すぐには、そっちにはいけないわ」


「明日。俺は、アメリカにいくよ。今…肉親は、俺しかいないから」

啓介の言葉に、交差点を渡り切った瞬間、足を止めた。

「明日?」

「明日だ。だから、母さんの退院をよろしく頼むよ。いきたいんだけど…。母さんが、急いでアメリカに、迎えに行けと…いうから」

「わかったわ。気を付けて」

明日香は動揺から、何度も頷くと、携帯をしまい、店に向かう。

悲しむ暇もなかった。

明日香は、Evilにいくために、エレベーターに乗った。

「待って下さい」

誰かが、エレベーターをとめて、滑り込んできた。

「あら」

明日香が驚いた。

「紗理奈さん!」

紗理奈も驚いた。

「明日香さん?」

エレベーターが閉じる。

二人っきりの空間となる。

「今日は、お一人…なんですか?」

紗理奈は、視線を外し、

「いつも一人よ」



エレベーターが開いた。

「今日…マスターが来てないんで、準備…まだ何です…」

慌てて、店の鍵をあける明日香。

「いいよ、待ってる」

紗理奈は扉の近くで、壁にもたれた。



しばらくして、

明日香が、店から顔を出した。

「お待たせしました。どうぞ」

紗理奈は、店内に入った。


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