黄昏に香る音色
タバコに火をつけ、

紗理奈は、カウンターに座る。

「明日香さんって、何歳なの?」

二人だけの店内に、タバコの煙が漂う。

「今は、20歳ですけど、もうすぐ21になります」

「あたしが、20歳になったばかりだから…1つ上ね」

明日香は、コースターの上にビールを置いた。

音楽が流れ出した。

エリスレジーナの“イン・ロンドン”

和美にもらったCD。


「今、かかっている曲…和美さんに似てる」

吸う手をとめて、思わず呟いた紗理奈に、

明日香は反応した。

「河野和美さんですよね。あたしも、似てると思いました。歌い方とか、声は違いますけど…雰囲気がそっくり」

「あんた、和美さんを知ってるの?」

明日香は頷き、

「このCDも、和美さんから頂きました」


もう遠い昔の話のように、明日香には感じられた。


紗理奈は一気に、

ビールを飲み干すと、

またおかわりを頼んだ。

明日香は、新しいグラスに、ビールを注ぐ。


「ニュースを見て、ショックだった…生きる目標がなくなったみたいな…」

紗理奈は、サーバーから注がれるビールを、じっと見つめた。


そして、いきなり席を立った。

「あんたも、歌手なんだろ!どうしたら、ああいう風になれる!どうしたら、歌手になれる!どうしたら、あのキラキラ輝いたところに、いける!」

紗理奈のぶつけるような激しい問い掛けに、

明日香は静かに、目をつぶり…

考えた。

そして、

おもむろに口を開いた。
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