黄昏に香る音色
「あたしは…和美さんの足元にも及ばないので、わかりませんが…ただ歌をうたいたいなら…方法は、たくさんあります。バンドを組むとか…」

「あたし、バンドは無理!人間関係うざいし」

紗理奈は座ると、きっぱりと言った。

「じゃあ…ギターで、弾き語りとか」

「楽器できない。カラオケしか歌ったことがない」



明日香はまた、考えた。

「やっぱり…ギターと歌がいいですね。紗理奈さんが歌で、ギターはゆうさんで!」

ゆうの名前がでて、紗理奈は驚いた。

「なんで、ゆうなんだ!」

「だめなんですか?」

「……まあ、でも…ちょうどよかった!」

紗理奈は、グラスを置き、

「あんた!ゆうをどう思ってるの!あいつは、あんたに、会いに来てるんだろ」

明日香は目を丸くし、

「来てましたけど、それは…あたしに相談してたから…」

明日香は、ちょっと言いにくそうな顔をする。

「相談!?何を相談してたのよ」


明日香は、紗理奈の顔を見…静かに頷くと、話しだした。

「紗理奈さんのことですよ。歌好きみたいだから…何を、オススメしたらいいのかとか」


今度は、紗理奈が驚いた。

「え?」


「あたしが、音楽にくわしいからって」

紗理奈の頭に、自慢気に説明する優一が浮かんだ。

(あいつの知識じゃなかったのか!)


「いつも何をきかせたらいいのか…悩んでましたよ」

(あいつがあたしの為に)


その時、店の扉が開いた。

「噂をすれば…」

明日香の笑顔。

店に入ってきたのは、

ゆうだった。

一瞬、

足を止めて、入るのを躊躇った。

しかし、

覚悟を決めて、ゆうはカウンターに向かった。

紗理奈と、少し離れて座った。

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