黄昏に香る音色
啓介のサックスが、ライブハウスの空間を切り裂く。

ずっしりにしたリズムセクションの安定感も、啓介には頼もしかった。



日本人だけでやりたい。

という願望はあった。

黒人と組むと、周りからブーイングがあった。

なぜ俺を使わず、日本人を使うのかと。

お前はできるやつだが…
雇えないと、断られることが多かった。

何とか、ミュージシャン間に知られ、

よくゲストには呼ばれるようになったが、

自分のバンドは、持てなかった。

それが、アメリカを去った理由だった。

今は、阿部達がいる。

LikeLoveYouのメンバーとも、いずれは、この国でやりたい。

ライブが終わると、どこでもスタンディングオペレーションになる。

狭い業界だ。知ってる顔も多いが、

周りから、グレイトという声が上がった。

ライブハウスをでると、すぐに次のライブハウスへ移動した。

とにかくライブだ。

今は、ライブしかない。

YASASHISAのシングルも、もうすぐ出来上がる。

先に三百枚くらいサンプル盤はプレスし、各ラジオ局に散布した。

バンド名はやはり、LikeLoveYou。




移動中のタクシーから、YASASHISAが流れてきた。

世界中で一番忙しく、

一番早く流れる情報と、時間の街。

そこの谷間を走るタクシーの、

閉鎖された空間に流れるYasashisa。

あまりにも場違いなシンプルな音。

しかし、タクシーの運転手が言った。

「こういう曲っていいですね」

啓介はただ、

窓から流れる街並みを眺めていた。
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