黄昏に香る音色
阿部は、舌をまいていた。

(いきなりオリジナルか)

それも、ステージで作曲していく。

啓介は、曲順を決めなかった。

ただ、LikeLoveYouの曲をやると。

いきなり知らない曲。

そりぁそうだ。

今、作曲している。

それも啓介ではなく、

明日香だ。

初めての外国。

まったくちがう観客の前で、ライブで曲をつくるだと。

阿部達は、明日香のトランペットの音に、全神経を集中させる。

明日香は、天性のメロディメイカーだ。

それもどこか日本ぽい。

それに、懐かしい。

心をかきむしるような…切なさがある。

それは、何かをカバーしてるとか、切なく吹いてるではない。

子供の無邪気さ。

無邪気な子供に戻れない切なさ。

無垢な音。


(チッ)

阿部は、舌打ちした。

明日香の邪魔をしないように、弾くだけで精一杯だ。

気が付くと、原田はピアノを弾くのを止めていた。

弾いたら、邪魔だと感じたのだ。

明日香の展開に、難なく合わせていく啓介にも、驚いた。

武田は、リズムキープに徹している。

もうだめだと、阿部が思った時、

明日香は、ストレートミュートを付け、印象的なイントロを奏でる。

間一髪を入れずに、原田がピアノを弾く。

yasashisaだ。

知っている曲に変わり、

阿部はほっとした。

観客は、息を飲んだ…。ため息すら、飲み込んだ。

今、この瞬間、

明日香は、トランペッターとして、

羽ばたいていく。

LikeLoveYouの

アメリカでの活動が、始まったのだ。
< 407 / 456 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop