黄昏に香る音色
「明日香!いるんでしょ」

痺れを切らした里美が、階段を駆け上がってくるのが、音でわかった。

グラウンドから、直接渡り廊下にのびる階段は、南館への出入り口のすぐ、そばにある。

息を切らしながら、上がってきた里美の姿を認めて、

明日香は慌てて、妙に取り乱す。

「ご、ごめんなさい!ちょっと、話し込んじゃって…」

里美は、キョトンとした。

「誰と?」

「誰って…後ろにいる…」

明日香は、振り返った。

だけど、

そこには、誰もいなかった。

「階段上がる時から、見てたけど…あんた、1人しか見えなかったけど」

里美の言葉に、明日香は絶句した。

さっきまで、ゆうがいた場所。

今はただ…

沈みかけた夕陽が、照らしているだけだった。

< 42 / 456 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop