黄昏に香る音色
「次やったら…クビにするだってよお〜。畜生が」

店の裏口から、出てきた健司達。

近くにあったダンボールを、蹴飛ばした健司に、

井守が呆れた。

「仕方ないだろ?ここでの仕事は、ムード音楽を奏でることなんだから…」

「はあ〜?だったら、レコードでもかけてりゃ〜いいだろ!俺達を、雇わなくても!」

健司は、井守に食ってかかった。

「阿呆があ!それが仕事だろが!」

井守も言い返す。

「仕事?こんな、カラオケみたいなことをやるなんて、きいてないぜ」

健司は、井守を睨む。

「隼人!」

井守は、一番後ろにいた武田を叫んだ。

武田は肩をすくめ、

「健司には、説明してないよ」

「な!?」

井守は絶句する。

「こいつに、言ったら…仕事やらねえもん」

武田の言葉に、井守は怒りながら近寄り、

「てめえも、てめえだ!健司と一緒に、熱くなりやがって」

井守は、武田の胸倉をつかんだ。

「仕方ないだろ?あの場合…」




「観客がいたんだ…」

健司は、3人に背を向けて、空を見つめながら、呟いた。

先ほどから、一切口を開いていない原田も、頷いた。

「真剣に、聴いてたお客がいたんだ…。1人だけな」
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