黄昏に香る音色
「観客?何だ、そりぁ?聴いてるやつぐらい、いるだろが」

井守は、呆れながら言った。

「ただ聴いてるじゃない…。魂が、震えてるんだ」

健司は、歩き出す。

「訳わからないことを…」

井守は頭をかき、ため息をつくと、歩き出した。

「健司!今度は、ちゃんと吹けよ!俺らみたいなのが、やれる場所なんて、あんまりないんだからな!」

井守の叫び声に、

健司は振り返り、

「だったら、学校に戻りやがれ!」

「な、何だと!」

怒る井守。


武田は、ため息をつき、

原田は、欠伸をしていた。

彼らは、同じ大学のジャズ研にいた。

今は、ほとんど学校にいていない。

毎日、音楽を演奏できる場所を探して、歩き回っていた。

音楽を究めるには、人生は短い。

その短い人生を、いかに過ごすのか。

音楽の終わりが、近づいていると、多くの業界人が言った。

確かに、ジャズもロックも死んでいた。

あの帝王さえ、引退して出てこない。

街中に溢れる、打ち込みの音…。

(ありゃあ…商品だ)

芸術ではない。

そう健司達が、大学という揺りかごの中で、思っていた頃、

ある歌手が登場した。

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